ボール拾いの背中を見る
【2月27日】
球団のトップ2を乗せたアルファードが宜野座に着いたのは10時40分だった。球場前の駐車場で後部席から降りてきたのは球団社長の粟井一夫、そして、同本部長の嶌村聡である。
重役出勤…いわゆるその類いではない。両者は朝からうるま市の具志川野球場、つまり、ファームキャンプ地へ出向き、地元関係者へ謝意を伝えてから宜野座へやって来たのだ。
長丁場、お疲れさまでした。
粟井にそう伝えると、「疲れ…。うん、少しだけかな」と笑って続けた。
「ずっと天候に恵まれてね。外でバッティング練習ができなかった日は一日もなかったでしょ。そういう意味でも、いいキャンプだったと思います」
球団社長が「少しだけ」疲れた理由は察しがつく。「お客様」対応で夜の付き合いが多忙。酒量が増える…しかし、それも「いい疲れ」なんだとか。
キャンプ前半は「外向きの宴席」が続いた粟井にとって、欠かせない「内向きの酒席」もある。キャンプ最後の日曜(25日)の夜、うるま市のファーム宿舎で同監督の和田豊、コーチ陣全員と会食。育成論に花を咲かせた。
「僕が何か号令をかけるとか、そんな話ではなく、激励というかね…」
とはいえ、その席上、例えば西純矢や森木大智ら、期待してやまない面々の名が挙がったのは事実だという。
「連覇するためには、やはり、本来1軍にいるべき選手もそうですし、新たな名前も挙がってこないとね…」
確かに、一年前は村上頌樹がMVPに輝くなど想像できなかったわけで。
現状維持で連覇できるほど甘い世界でないことを肝に銘じ、充実のキャンプを過ごしてきたオール岡田阪神だ。
さて就任二年目の開幕へ、岡田彰布は大事なことをカメラの前で公言しないままキャンプを終えた。開幕投手、そして、チームの4番について。いや実は、4番に関してはデイリースポーツのインタビューで岡田は明言した。
「やっぱり今年も大山が4番やなと思う」-。
果たして、これを聞いて当の本人はどんな心持ちになるのか。手締めを終えた大山悠輔に確かめてみた。
「まあ、でも…やることは変わらないですし、チームが勝つためにどうすればいいか、そのためにどういう準備をすればいいか、自分がしっかりそういうところを考えて…という意味で、まったく変わらないですね」
大山らしく、不動心で開幕へ向かっていることだけ分かれば十分である。
そういえば、球団社長の目には、4番の姿がどう映っているのか聞いたことがなかった。粟井は言う。
「僕がいつも見ているのはボール拾いです。今キャンプ中もバッティング練習が終わったら、だいたい大山選手と近本選手が真っ先に飛び出してボールを拾っていました。あの2人が率先してやるから、若い選手もしっかりやりますよね…。ああいうシーンを見ていると、いいチームだなと思います」
四方を見渡しても、深部が揺らがない。王者にそんな頼もしさを感じた27日間だった。=敬称略=