言わないことにしている
【3月4日】
何人からこう聞かれただろうか。
「どうせ知ってたんでしょ?」
旧知の仲間、ご近所さん…ふだん野球に縁遠い方々の間でも、その話題で持ち切りだった。
大谷翔平の結婚である。
ごめんなさい、こういっちゃなんだけど、知るわけないんよ…。
僕がプロ野球のメディアに長く携わってきたものだから、「知ってても書けなかっただけでしょ?」みたいに疑われるのだ。
だから、説明する。
おそらく、大谷に近い存在でも聞かされていない者のほうがはるかに多かったはずだし、侍ジャパンの同僚でさえ「寝耳に水」なのに、僕などが知る由もない。そもそも、彼女がいたことすら、まったく知りませんでした-。
「『取材ノート』っちゅうコラムを書いてんのに、取材不足ちゃう?」
行きつけの料理店の大将からジョーク交じりに笑われた。まあ、それだけ世間の注目度が高かった…ということである。
「風さん、これは知ってるやろ?」 その大将からたたみかけられた。
これはもう、自称「虎党」の方々と話せば、必ず聞かれること…。
阪神の開幕投手である。
で、僕は今のところ何と答えるか。
決まってません…。いや、正確には取材が及んでません…。
しかし、当欄の性質上、いつまでも「知りません」ではいけない。遠く海の向こうのハナシではないので。
ツラいことに取材が届かない。それくらい、現政権のガードは堅い。これを知るべき2人の投手コーチも関係者も口を割らない。組織上当然のことだし、仮にダダ漏れするようなら、まず指揮官が許さない。だから、ここからは、取材に基づいた僕の臆測…。
岡田彰布の腹は決まっている。
頭にはっきりとその名がある。
もう間接的に本人に伝わっているのでは…と、僕は勝手に踏んでいる。
そういえば、沖縄に滞在した2月のこと。「きっと、彼がそうだろう」と思う投手と話す機会があった。
聞きたかったのは、昨シーズンの自身を省みたときのホンネだ。
数段上のランクに上ってやるという気概がかえって自身を苦しめたのでは?そう聞けば、当人は…
「そうですね。僕は、毎年毎年良くなろうと思って、自分のキャリア、自分のレベルを上げることをずっと考えていたので…。上を上を目指し過ぎた結果、自分じゃなくなっちゃった部分があったかなと思います」
そんなふうに答えていた。
先頃、虎番からオープン戦の登板予定日を問われた彼は「僕は言わないことにしているので」と返したという。
次回は8日のヤクルト戦だ。少し肌寒い甲子園のマウンドで右腕を振る。そこで体も心も順調なら…。開幕への思い入れは「ある」投手であり、大役を指名する岡田も「任せたい」投手。昨年の歓喜は輪の中心にいられなかった。今年はそのド真ん中に…。僕はそう期待してやまない。=敬称略=