さらば新井 34年ぶり日本一の夢散るも涙なし プロ20年最終打席は遊ゴロ

 「日本シリーズ・第6戦、広島0-2ソフトバンク」(3日、マツダスタジアム)

 広島の新井貴浩内野手(41)が日本シリーズを最後に現役生活に別れを告げた。打てずに苦しむ日々もあったが、必死に前を向き、バットを振り続けてきた。現役最後の打席は遊ゴロ。試合もソフトバンクに敗れた。それでも涙はない。最後を日本一で飾ることはできなかったが、全速力で駆け抜けた20年のプロ野球生活に悔いはない。

 新井らしく全力疾走を貫いた。2点を追う八回先頭、代打で登場して遊ゴロ。日本一の夢は散ったが、涙はない。セレモニーを終えて、みんなへ、感謝の思いを言葉にした。

 「日本一には届かなかったけど、みんなの頑張り、必死さはすごく伝わってきた。感謝しかない。お世話になった方、かわいい後輩たち、何よりたくさん応援してくれた人にありがとうございます」

 プロ20年間を振り返ると「苦しいこと、悔しいことばっかり」と言う。山本浩二監督に初めて4番を任され、FA移籍した阪神では金本引退後の4番に座り、容赦ない批判にもさらされた。ファンレターには「頼むからカープに帰ってくれ」。応援ボイコットされ、スタンドから念力を送られたこともあった。どん底から救ってくれたのもファンだ。打席へ向かう時、手を合わせて祈ってくれる人が見えた。「その人たちのために頑張ろう」。苦悩の日々を過ごす中で心の支えとなった。

 「若いうちは苦労は買ってでもって言うだろ。今はいい思い出。苦しい思いをすればするほど、他人の気持ちが分かるようになる」

 開幕2軍で迎えた今春はサイン禁止の大野練習場ですらすらペンを走らせた。「絶対内緒よ。言ったらオレが怒られるから」。昨夏、横浜で連敗を喫した夜は背番号25のユニホームを持った車いすの少年を見つけて「ありがとうね。写真も撮ろうか」。いつも、誰に対しても優しかった。

 幼少期から三国志の劉備がお気に入り。負けると知って弔い合戦へ向かう姿に心を打たれたという。「情というか心の部分」。だから「結果が全て」という言葉を何より嫌う。実績よりも大切なのは「思いやり、相手へのリスペクト、謙虚な気持ち」。それを20年の現役生活で痛感した。「自分がいるから周りがいるんじゃない。周りがいるから自分がいる。周りの人にも良くなってほしい」と語気を強めて言う。

 今年でユニホームを脱ぐと決めた理由もそうだ。夏の終わり、父・浩吉さんから「もう1年できるんじゃないか」と現役続行を勧められた。高校まで敬語で話しかけるほど怖かった父。それでも決心は揺るがなかった。

 「オレにとってはもう1年かもしれんけど、若い子にとってはこの1年。この1年がダメでクビになる選手もおるから。今年で辞めた方がいいと思う」

 最後は幸せだった。最高の仲間とグラウンドに立って、憧れのユニホームを脱げる。

 「こういう選手ってなかなかいないから。3連覇してユニホームを脱がせてもらえて。本当にありがとうっていう気持ちしかない。最後まで真剣勝負できて感謝しかない」

 第二の人生は「ファミリータイム」と表現する。護摩行でも燃えさかる炎の前で祈っていたのはいつも家族のこと。両親に感謝し、「家族を守ってください」と心から願った。「来年楽しみやな。やっとゆっくりできるからな。ノンプレッシャーで」。まずは北陸の日本海側を旅しておいしいものを堪能するつもりだ。自転車を候補に新しい趣味も探す。もちろん息子の野球の応援も。最後は新井らしい穏やかな表情で、野球に別れを告げた。

関連ニュース

編集者のオススメ記事

カープ最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(野球)

    話題の写真ランキング

    写真

    デイリーおすすめアイテム

    リアルタイムランキング

    注目トピックス