「親善試合」の韓国と「本気」の台湾

 「アジアプロ野球チャンピオンシップ」(16~19日、東京ドーム)を控え、韓国、台湾両チームとも地元での最終チェックを終えた。韓国はソウルの高尺スカイドームで3試合を行い、結果は2勝1敗。台湾は千葉ロッテを招いての強化試合で0勝3敗。ただ直前だけに、結果よりも大事なのはコンディション。

 とくに韓国代表の宣銅烈(ソン・ドンヨル)監督の持論は「データも大切だが、ベンチやプルペンで感じる選手の状態のほうが最も大事」というもの。これはシーズン中もだが、短期戦の国際大会になれば尚のことだと聞いたことがある。

 一般的に国際大会は、どの国でも各チームから選手を預かり、代表監督やコーチが指揮采配を振るう。当然、大会前には先発数名と中継ぎ陣の順番や使い方なども決めておくものだが、宣銅烈監督がこれまでWBCなどで見せた継投は、大会中でも使うことに不安を感じれば、遠慮なくすぐに外すし、予想外に使える投手は予定を変えて連投もさせた。そうしたコンディションを把握するためにも、選手のみならず監督にとっても直前の壮行試合は大事なのだ。今回、3試合を戦って宣銅烈監督が感じた手応えは…実は技術や体調ではなく、メンタルだったようだ。

 「今回は24歳以下ということもあって国際大会の経験が少ない。東京ドームでプレーした選手もほとんどいない」(宣銅烈監督)。

 そのためプレー以前に緊張や気負いで十分な力を発揮できないことの方を心配している。だから選手を集めて口にする言葉は「結果を気にせず、自分の技術だけ発揮することを考えなさい」だ。

 韓国の今大会のエース格は朴世雄(パク・セウン)。今季はロッテジャイアンツで12勝(6敗)、防御率3.68の成績を残したプロ4年目の21歳だ。制球力と変化球が身上の反面、若さ、や思い切りを感じさせるタイプではない。宣銅烈監督は、この12勝右腕より張現植(チャン・ヒョンシク)というNCダイノスの右腕を期待の選手として挙げている。今季成績は9勝9敗、防御率5.29。こちらもプロ4年目で22歳。勝ち星、防御率ともに朴世雄が勝るが、宣銅烈監督が評価するのは張現植の投げっぷりだ。球速はMAX153キロ程度ながらも、投球の7割がその真っすぐで押す。精緻な制球力もなく、いわゆる荒削りタイプだけに痛打も食らうが、伸びシロの期待度としては、監督、コーチとして魅力を感じる本格派なのだろう。こうした投手の名前を口にすること自体、彼が勝負より経験を積む機会と今大会を捉えているように思える。

 宣銅烈監督には苦い記憶がある。かつてこの時期に開催されていたアジアシリーズという大会があった。日本、韓国、台湾の国内優勝チームに、中国代表の4チームでアジアのチャンピオンを決めるという大会。この大会で当時、サムスン・ライオンズを率いてシーズン連覇を果たした宣銅烈監督は、05、06年と2年続けて同大会に参加。しかし05年は準優勝に終わり、帰国。そこで待っていたのは国内メディアのバッシングだった。当時、初の試みということで韓国内の期待も大きく、そのぶん千葉ロッテに敗退した失望感は、韓国メディアに多かった。

 その際だったと思う。宣銅烈監督はこう嘆いた。「長いシーズンを戦って優勝したのに、わずか数試合の大会に負けたことで、シーズン優勝の価値がなくなったように叩くのはいかがなものか」と。日本のファンやマスコミも、あるいは同じ感覚を持つだろうか。しかし韓国では国際大会、とくに対日本ともなれば今でも過敏となる。宣銅烈監督は、それを恐れている。ましてや選手は若いのだ。

 10月12日に東京で行われた記者会見でも、だからだろうか、宣銅烈監督は今回の「チャンピオンシップ」を「若手が国際大会を経験できるいい親善試合」という表現でコメントした。「親善試合」。あえてそう言葉を選んだ裏には「この大会は親善大会なのだから、あまり勝敗にムキにならないで欲しい」という想いがうかがえる。

 一方、台湾の洪一中監督は、数多くの国際大会の代表監督を務めてきた。郭泰源氏など日本でも名の知れた台湾のレジェンドたちが務めてもきたが、結果が出せず退任。再び、この人にお鉢が回ってきた。彼は今、台湾球界でも「選手の好不調の見極めと起用には一日の長がある」と評される監督だ。おそらく現状では再来年のプレミア12、そして東京五輪も洪一中監督が指揮を執る可能性が高い。

 実績、経歴もある分、彼に求められるのは結果だ。そのためだろうか。今大会、日本と韓国は「若手の出場機会をより増やすため」という理由から、わざわざ儲けたオーバーエイジ枠3つを放棄した。事前に両国の意見が伝わり「それならオーバーエイジ枠そのものを廃止しようか」という意見も出たらしい。そこに待ったをかけたのが台湾の洪一中監督だったと伝えられている。いわば、それだけ“本気”だということだ。

 それでなくても台湾は近年、国際大会での結果が芳しくない。他国のチームにとって「若手のチャンスを作る親善大会」だとしても、勝ちに行かなくてはならないのだ。だからこそ、30歳の陽岱鋼や千葉ロッテで今季3勝(4敗)のチェン・グァンユウ(陳冠宇)を加えなければならなかった。

 期待の王柏融(ワン・ボーロン)という外野手がいる。2シーズン連続で打率4割を超えた、今、台湾を代表する注目のスラッガーだ。おそらくNPBの関係者がこの大会で唯一、関心をもって見つめる選手だろう。ただそのスラッガーも、千葉ロッテとの壮行試合の内容は3試合で12打席で1安打、5三振。果たして、より注目される東京ドームで、どれだけ真価を発揮できるか。文字通り、台湾の雌雄は洪一中監督の手腕にかかっている。

 内容か、結果か。

 いずれにせよ、他国も今回の顔ぶれが19年のプレミア12や翌20年の東京五輪の主軸選手として出て来ることに違いはない。期待を込めて若い選手たちのプレーを見てみたいと思うし、勝敗を度外視したハツラツさを発揮して貰いたい。

 そのための大会なのだから。(スポーツライター・木村公一)

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