韓国球界の「ビデオ判読」システム 日本より一足先に導入、その進歩と課題

 「リクエスト」が採用された今季、シーズン前半は多少のトラブルもあったが、ここにきて落ち着いたのか物議を醸すこともあまりなくなったようだ。日本人特有の慣れ、順応性だろうか(苦笑)。ただ6月22日のオリックス-ソフトバンク戦(ほっともっとフィールド)で生じたリプレー検証のミスによる誤審は、現在の検証スタイルの限界を示したものといえるだろう。

 リーグへの提訴までに至ったこのトラブルはすでに多く報じられているからここでは省くが、問題のひとつはビデオをチェックした審判員の「(チェックするために映像の)コマ送りで止める箇所が間違っていた」という点だ。一体、リプレーチェックに、どんな機材が使われているというのか?

 現在、監督からリクエスト制度の行使を告げられた審判は、多くの球場ではバックネット裏にある「審判室」へ移動し、設置してあるビデオ機材でチェックしている。だが関係者の話では機材といっても「多くはテレビ局が使う高度な再生機能を持った機材ではなく、量販店で一般の人が購入するようなレコーダー」だというのだ。そのレコーダーで録画していたシーンを再生し、コマ送りさせながらプレーをチェックする。それも審判員が試合中に自分で操作して…。

 すでにご存じの方も多いだろうが、メジャーの「チャレンジ」では、球場の審判はビデオチェックに携わらない。ニューヨークにある専用の施設で30球場でのプレーを一括管理し、その施設のオペレーターがチェック。審判はヘッドセット越しにその判定を聞き、試合再開する。無論、映像は日本のように中継するテレビ局から借り受けたものではなく、独自に撮影したものといわれる。

 韓国では「ビデオ判読」と称するこのシステム、実は早いうちから導入していた。最初は2014年シーズンの後半から、ホームランかファウルかなど一部のプレーにのみ映像を参考にする「審判合意判定」を導入した。同年、MLBが「チャレンジ」を開始したのを受け、翌シーズンを待たずに用いたわけだ。そして16年までは、日本と同様、審判室に設けられた機材で審判員が判読していた。

 だが、韓国球界の関係者によれば「その都度、審判が部屋に戻ってビデオチェックするのは効率が悪く、なにより韓国ではテレビ局との中継権の関係が複雑で、すべての球場での試合中継映像を使うことが難しくなっていった」のだという。

 そこで昨シーズンからソウル市内に「ビデオ判読センター」を設置し、独自のカメラも各球場に設置。さらには専任のオペレーターを動員して「ビデオ判読」の体制を固めた。さらに今シーズンはよそにあった同センターをソウル市内にあるKBO会館に移転。初期費用は約30億ウォン(約3億円)程度で、運営費は年間5億6000万ウォン(約5600万円)といわれている。

 現在の配置はというと、球場のカメラは10台。うちKBO独自のものは3台で、一塁と二塁、そしてホームをカバーし、その他は現在もテレビ局のカメラ7台の映像提供で対応している。ちなみに15年からの2シーズンでの“リクエスト”の内、7割を占めたのが一塁と二塁で発生したプレーだったという。

 判読センター側のスタッフは、以前に審判委員長まで経験したベテラン委員をメインに審判2人の計3人。加えて映像機器を取り扱う専門のオペレーター4人が就き、すべての試合をチェックしていく。また、球場側でもそれぞれ約10人のスタッフがセンターと連携するという。

 こう記せば、メジャー同様にしっかりとした運営に感じられるが、関係者によればそれでも「問題が多い」のだという。一番の問題は「センターでの判読ミス」だ。

 例えば審判がファウルとジャッジし、スタンドの電光掲示板でリプレーされる映像でも明らかなファウルが、ソウルの判読センターを介する判定ではホームランになった。一塁への打者走者の判定がセーフからアウトに覆る…といったケースは、今季だけでも数度に及ぶ。前述のように観客も映像を見られるため「誤審」は衆目のものとなるから始末に負えない。

 8月5日、ロッテの監督はビデオ判読での決定に納得いかずに抗議に出た揚げ句、退場処分を食らうというケースもあった。試合後の監督のコメントがすべてを表している。

 「誤審も試合の一部分だろう。しかしトラブルを減らすためのビデオ判読でトラブルが増えては意味がない」

 元来、韓国プロ野球の審判レベルの低さは球界内でもいわば“公然の秘密”だった。ストライク、ボールのジャッジは審判によりマチマチで、投手のコントロールが磨かれない一因として審判のジャッジの問題が指摘されているほどだ。塁審も立ち位置が悪かったり、移動しながらコールすることもあり、正確に見ているかどうか疑わしいタイミングも少なくなかった。それだけにメジャー流のビデオ判読は求められていた措置でもあった。

 事実、KBOが発表したデータによれば、15年は720試合で423回の監督からの要請があり、そのうち166回で判定が覆っている。率にして39・2%。翌16年は720試合で33・1%、17年は31%と年を追うごとにジャッジが覆る頻度、つまりビデオ判定をしても覆らない、いわば「正しい判定」がなされている。それでもKBO関係者からすれば「30%台ある判定の覆りをいかにゼロに近づけていけるかが大事」とも言うだけに、センターでの判定ミスは頭の痛い課題とも言える。

 ミスの要因には、時間の制約も挙げられている。韓国では判定チェックは5分以内に制限されているが、微妙なプレーを吟味するには、この制約が焦りを生じさせている可能性がある、というわけだ。ちなみに昨年の平均時間は1分44秒。ただし最長では9分かかったという。

 こうした試行錯誤を日本球界は対岸の火事と見過ごしていいのかどうか。いずれにせよ球場裏で審判が市販のレコーダーで録画したプレーを、リモコンでコマ送りしながら再チェックする…そんな頼りないやり方は改めてもらいたいと思うのだが。(スポーツライター・木村公一)

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