【ボート】新天地・宮島で紡ぐ新たな物語~心の同期・市川哲也のA級勝負駆け~

 「ボートレース記者コラム 仕事・賭け事・独り言」

 2010年3月から常駐していたボートレース児島を離れ、古巣の宮島担当になって1カ月半。この間私は近年にない密度の濃い時間を過ごしている。まるで一カ月が一年の感覚だ。年を取ると時間がたつのが速いと言われるが、今の私は知人の息子と同じ小学校の新一年生。ボート歴30年超にしてワクワク、ドッキーン、アタフタの毎日を送っている。

 宮島では直前予想に初チャレンジ。毎日1~12Rまで予想し続ける。これは新聞の前日予想とは全く違うプレッシャー。最初は全く当たらず、吐きそうな日々だった。口には出さないが、「また外れたよ。何であの選手を3着で拾わなかったのよ」と3連単3ケタの配当を外してぞぞっ。後悔して推奨舟券の点数を増やすと、一番人気で激安の殿堂。「底引き網漁業でメダカじゃ品がない」と絞れば、次は3連単万舟券。「やっぱりホームランよ。当てに行っちゃダメ。振り抜かなきゃ」と狙いすぎると大空振り。

 心のつぶやきが『孤独のグルメ』のゴローさん状態になり、「お腹が減った」と菓子パンをちぎって口に放り込む。ゆっくり食事をする時間もないが、食べないと頭が回らない。最初の2節で体はボロボロ、心はズタズタ。これ以上もう持たないと心が折れかけた。

 そこで再認識した。やはり私は、選手のオーラを感じないとセンサーが働かない。ペラ調整に励む姿、レース後に悔しさをかみしめる姿。同期や先輩、時には後輩にもアドバイスをもらって調整する姿。その映像が頭の中でリンクし、ビビビとくるのだ。そんな選手の“気”に触れつつ、記事を書いたり予想をしていると、ある変化が起きた。友人を介して、「ノバクねえさんのコメントが面白い」と読者からのメッセージが届いたのだ。デイリースポーツを持って来賓席に来られたあるお客さまに、「これはちゃんと取材をして書いた記事じゃ。読んだら分かる。頑張りんさい」と励まされた。

 その瞬間、ハッとした。大切なことを忘れていた。そう、実感のこもらない文章は伝わらない。ちゃんと読者の心に響く記事を書くことが大前提。選手の心に寄り添い、その言葉から勝利の物語を紡ぐ。その向こう側に当たりがあるのだ。

 現在私は、広島支部の選手が大多数を占めるゴールデンウイーク恒例の『若葉賞』で予想と取材をしている。デビュー時から知っている選手の多くが、50歳代の今も頑張り続けている。ボート界の4月末は半年間の締め。最高位のA1級以下、A2級、B1級、B2級とランク付けされ、成績不振が続けば引退も余儀なくされる。私がボートの仕事を始めた同時期にデビューした、“心の同期”市川哲也(55)はA級生き残りをかけて目下奮闘中だ。デビュー4期目でA級となり、過去一度もB級落ちはない。5年目にA1となって29年間、ずっとこの地位を守り続けてきた。その彼が初めて味わう試練。SG優勝4回、通算優勝101回を数える輝かしい実績をかなぐり捨て、彼は必死のパッチでA級勝負に挑んでいる。4月1節目に宮島を走った時の勝率は5・20で絶体絶命。4月28日現在の勝率は5・44とボーダー付近だ。今節は前回よりも目に力が宿っている。SGの完全優勝も、グランプリ制覇も感動したが、私は今の市川もスゴイと感じる。今期を乗り越えた先にある未来が私には見える。

 今もこのコラムを書きながら、次の予想が待っている。選手とファンの架け橋となるべく、私は今日もてんてこ舞い。オンラインの直前予想も紙面も、心を込めてお届けいたします。(ボートレース宮島担当・野白由貴子)

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