年間100本アウトに…
【4月10日】
珍しいシーンだった。あまり見たことが…いや、これだけプロ野球を見てきて初めてかもしれない。二回、アドゥワ誠がバットを折りながら放った力のない打球が二塁ベースに直撃した。
一塁や三塁のベースに打球が当たるシーンはまあまあ見るが、二塁ベース、しかもノーバウンドはなかなか…。伊藤将司にとってはハードラックな被打だったが、ベースに跳ねた打球はショート方向へ。二遊間へ足を運んだ木浪聖也が逆をつかれる格好になったが、しかし、まだツキがあるように映った。これが外野へ転がっていれば二塁走者は生還していたかもしれない。この時点でまだ2点差。このイレギュラーを味方につければ…そんなふうに見ていたが、伊藤将司が粘れなかった。
その後も連打を浴び、アドゥワをホームへ返したのが菊池涼介のタイムリー二塁打。この一本が痛かった。
甲子園には魔物が…そんな話をきのう当欄で書いたばかりだけど、どんな名手でも、こんなふうにベースに跳ねる打球はさすがにさばけない。
いや、この人ならどうか…。
「あっ、風さん。きのうはスタンドから練習見てましたよね。きょうはグラウンドまで降りて来たんですか?」
試合前にベンチ横でカープの練習を見ていると菊池が挨拶に来てくれた。
しかし、名手は視野もハンパない。僕の取材位置までしっかり見ている。
菊池と喋るのは2月の沖縄キャンプ以来だから、1カ月半ぶり。
元気にしてた?
「元気っすよ。数字は元気じゃないですけど(笑)」
この試合までは確かに…というか、そもそもカープ打線の得点力がなかなか上向かなかった。線にならなければ個も苦しい。僕の立場上、鯉は眠らせておきたいところだったけれど…。
キク、よう打つやんか!
ところで…あなたに守備のことで聞きたいことがあるんですが?
甲子園とマツダスタジアム。
どちらで守るのが難しい?
「(打球は)マツダのほうが気持ち悪いですよ。芝の長さが違えば(打球が)違うし…。(芝が)濡れてる、濡れてないでまた違うし…。きょうの甲子園は、きのうよりは(土は)柔らかかったね。見て捕れるし、予想ができる。イレギュラーはありますけどね」
名だたる阪神園芸の「神整備」だけど、さすがに毎イニング整えるわけにはいかない。回が進むにつれ、土は荒れる。しかし、どんなイレギュラーも反応してこそ名手といえる。
そんな菊池が「認める」若きショートは、きのう当欄で書いた矢野雅哉。この日はスタメンを小園海斗に譲りベンチスタートだったが、無類のポテンシャルがあるという。
「矢野が守ったらヒット性の打球を年間100本はアウトにしますよ」
新井貴浩は、監督に就任した一昨年の秋、ファームコーチからそんなふうに伝えられた。さすがにベースに跳ねる打球はしんどいだろうけど…
とにもかくにも、猛虎が魔物にやられた苦い夜である。=敬称略=