岡田監督 個人で応援される選手を育てる「バースは応援されんでも打ったけど」【8】

 有働「わたし、新聞購読を電子版に切り替えているんですけど、デイリースポーツだけは紙で取っています。何せ阪神に関する報道姿勢が素晴らしい。監督の口ぐせの、おーんまで正確に記事にしています(笑い)」

 文芸春秋6月号に、フリーアナウンサーの有働由美子さんと阪神・岡田彰布監督の対談が掲載されている。開幕直前にリモートの対面。有働さんのデイリー愛、受け止めました。ありがとうございます。社を代表してお礼申し上げます。星野監督時代には、試合前のベンチでよくお見掛けしました。今後ともよろしくお願いします。

 対談の中で岡田監督が強調しているのは、個人として応援される選手を育てること。チームとして勝つことは言うまでもないが、あまりにも勝敗だけに偏重していないか。チームは負けたけど、あの選手が打ってくれた。1985年の掛布、岡田、真弓はそうだった。

 「バースは応援されんでも打ったけど」と笑わせながら、85年のように個人が応援されるチームは強いというのが持論だ。仲良しグループである必要はない。

 「85年はみんなグラウンドでしか、顔合わさんかった。球場離れたら、お互い何をしているか知らん。掛布さんや真弓さんとも、個人的に食事に行ったことは、一度もなかった」

 それぞれが打撃投手ら、裏方さんを連れて食事に行った。85年の福岡遠征では、博多のホテルで用意された食事会場に来たのは、吉田監督と一枝コーチだけだった。

 「ホテルの人に叱られたわ。何十人分余ると思っているんですか。食べないなら最初にそう言ってくださいって」。それでも首脳陣は、選手に何も言わなかった。吉田監督は選手を大人扱いした。

 個性の強い選手が、ぶつかることもあった。オフの選手会懇親会。有馬温泉の夜に、浴衣姿で会話が熱を帯びた。あるベテランの抑え投手が「野球は一人で勝てる」と言い出した。

 掛布が「じゃあ三塁の打球は、一切捕りません。どうぞ一人で勝ったらええでしょ」。凍り付いた場の空気を選手会長の岡田がとりなした。「ほんま、あのときはびっくりしたわ」と後日、岡田が漏らしていた。

 84年までのキャンプは安芸市内の旅館で雑魚寝をしていた。二階の屋根上に増築した部屋は、体重制限していた。底が抜けるからだ。目の前が海で毎朝、強制的に体操した。太平洋からの寒風に、風邪をひく選手がいた。マネジャーが門限を見張り、選手は非常口からこっそり出入りした。

 吉田監督は宿舎を、隣町のリゾートホテルに替えた。ベテラン選手は個室にし、門限や休日の行動は選手に任せた。掛布や岡田はお好み焼き屋に、最初からポンとお金を渡す。「だれが来ても好きなだけ食べさせて」。台風被害で店が傾いたとき、岡田は寄付金を渡した。

 岡田監督も2004年は、選手を大人扱いした。星野遺産の金本、伊良部、下柳、赤星、矢野。そうするしかなかった。今回は違う。最年長が今年33歳の西勇。選手任せの大人扱いはまだできない。佐藤輝のホームラン。大山の存在感。近本の計算されたプレー。投手も含めて、個々に応援したい選手はいる。

 「怖いのはDeNAやで」と岡田監督は開幕前から言い続けている。DeNAには確かに個性的な選手が多い。個人レベルで魅力のある選手を育てる。岡田監督がこだわる采配の先にこそ「あれ」がある。(特別顧問・改発博明)

 ◇改発 博明(かいはつ・ひろあき)デイリースポーツ特別顧問。1957年生まれ、兵庫県出身。80年にデイリースポーツに入社し、85年の阪神日本一をトラ番として取材。報道部長、編集局長を経て2016年から株式会社デイリースポーツ代表取締役社長を務め、今年2月に退任した。

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