寛平ちゃんが来たその時

 【2月7日】

 間寛平が僕の斜め前に座った。宜野座のランチタイムである。メイン球場には大山悠輔と野口恭佑。両者の特打に拍手を送った虎党が今度は寛平ちゃんにカメラを向け、歓声をあげた。

 聞けば「24年の関西を盛り上げる」番組の企画でやって来たそうだけど、意外にも宜野座来訪は「初めて」だという。20年間ここで取材を続ける中で芸人さんの姿も沢さん見てきた。が、そうか、寛平ちゃんといえば鷹党である。福岡での始球式を映像で見たことがあるし、ホークスの宮崎キャンプにも度々行ってたっけ。そういえば、鷹が日本一になった年にこんな話をしていた記憶もある。

 「松田選手とか柳田選手が練習試合が終わってもまだ筋力トレーニングやってました。これだけ練習やってたらそら勝つと思いましたよ」

 確かに、ホークスは球団方針としてウエートトレーニングによる強化プログラムの確立が他球団と比べても早かった。主力がその先頭に立つことで若いうちからその「文化」が根付いていくと聞いた。もちろん、今の阪神にもその「文化」が育まれ、若虎のカラダは逞しく映る。この日、大山と2人でランチタイムの特打に臨んだ野口もそのひとりだ。取材の限り、野口は虎風荘の自室にダンベルを持ち込むほど、人一倍トレーニングに励む選手だ。

 寛平ちゃんがスタンドに現れるまでその23歳が拍手を独り占め。彼の両親もお見えになっていたようだから、本人もさぞ気合が入ったことだろう。番記者に聞けば、118スイングで7連発を含む26本のサク越えだったとか。オーバーフェンスを数えていなかった僕の目にも野口が「よう飛ばす」ことだけははっきり分かった。

 さて、翻って大山悠輔である。僕は主砲のサク越えも数えなかった。この時期の彼の飛距離に興味がなかったので。ただ、野口よりもその数が少なかったことだけは分かる。そんなことよりも、ひたすら、悠輔が何を思い、どんな意識でスイングして、何をもって良い悪いを判断しているのか。後々彼に問うために動画をずっと撮った。

 スタンドから何度も野口に送られた拍手は悠輔の耳にも当然入る。それが気になったかどうか分からないが、この日、僕が伝えるべきことは、悠輔のいわば「余裕」…悠然とした立ち居振る舞いだった。

 間寛平が僕の斜め前に座ったとき、ちょうど野口はケージを出てベンチへ引き上げたのだが、何かに気付き、ハッとなってグラウンドへ向き直った。

 背番号3が自らスイングした打席を平(なら)した後、背番号97が踏んだ打席の土も丁寧に平していたのだ。

 「すみません!ありがとうございます」。悠輔に頭を下げる野口の口を読めば、そんなふうに映った。練習中に垣間見る先輩後輩のいい光景だった。

 このとき岡田彰布は具志川でファームキャンプを視察していたのだが、指揮官は昨年から主砲のそんな所作、周囲から敬われる姿勢をよく見てきた。

 今年も4番は…書かなくともチームの皆が分かっている。  =敬称略=

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